ロではありません

 そこに バタバタと入ってきた人物がいた。
 ビン底眼鏡の 干からびたおばさんである。

 一つ瞬きをして、 こう言った。
「……オノコロちゃん。 私、 何をしに来たのかしら」
「さあ、 もしかして 講義の資料を取りに来たのでは。
 私はオノゴロです。 コロではありません。
 何度言ったら 分かってもらえるのでしょうか」
「ああ、 ではゴロちゃん車用空氣清新機。 ありがとう。
 多分そのようだ。 ちなみに 私は昼飯を食べただろうか」
「ガッツリ召し上がっていましたよ」
 そそくさと散らかった机に向かって行き、 資料をつかむと、
 唯一わずかに空いた壁に架けられた 小さな花の絵に顔を近づけて 満足そうに眺め、
 バタバタと出て行った。

「あの人が、 この研究室の五所川原教授です」
 ゴロちゃんが げんなりした顔で、 すでに居なくなってしまった人を紹介したが、
 加太和布先生は聞いていなかった。
「すごいものを持ってるのね。 これ伎観の本物よ」

 達磨坂も吸い込まれるように近づいて、 ボソリと推定価格を口にした。
 それを聞いたゴロちゃんが 唖然として口を開ける助聽器價錢
 蒲公英を描いた さりげない小品だが、 保存状態も良く、
 巨匠伎観の本物なら とんでもない貴重品だ。
 ガラクタだらけの部屋の、 汚れた壁に架けておくにはもったいない。

「ええーっ、 そんな小さな絵が 盗まれた機械より高いんですか。
 でも、 貰ったって言ってましたよ」
「くれる人がいるなら、 あたしも貰いたいもんだわね。
 買おうと思ったところで、 買えるものじゃないわよ755激光脫毛
 第一、 一度手に入れたら、 持ち主が おいそれとは手放さないわよ。
 どんな人がくれたのかしら」